こもを被った瞽女の行き倒れを能面(小面)に仕立ててシリーズとして撮っていこうと残雪の残る高地へでかけた。イメージとしては小雪が舞う冷気を求めたが、あいにくの晴れた悪条件であった。それでも陽が山に沈むまで待ち、雪面をつたう風が美帆の裸肌を凍えさせる時を待った。
美帆には凍死の世界のイメージをつたえた。待ち時間の間に美帆はその世界の霊と交信するがごとくに寡黙に待った。それは素足で雪面にうもれた時に確かな幻覚をみたのか、こもに舞い乱れる黒髪はギリシャ神話の蛇の髪をした女神のごとく恐ろしい形相をした姿をつくった。小面のかしいだ面がわずかな微笑をたたえて怨念を伝えていた。この怨念の世界を俺はまだ充分に理解していないが、撮り進あいだには二人でなにかしらの理解が生まれるだろう。
条件は充分とはいえないがこれだけの表現を作った美帆に感謝して旅装にもどった。
この小面の世界は2年ほど前にふとしたにっかけで起きたイメージである。今回ここではまだ発表出来ないが今年中には完成して個展を開きたいと思う。
今回掲載している古民家の中での画像ですが、本音をいうと自分の中でイメージが何にも出来なかった。事前の「こうありたい」という心の繋がりがなかったし、撮影した時間も短かったので、1枚の静止画になろうかなぁ・・・って思いがあった。ただ、こんな感情では、つまらない写真が出来ることは分かっているから、数年前にこの古民家で縛られていた私を探すことにした。古民家の柱一つにしても、想い出が溢れてくる。懐かしいというよりも、私はまた囚われた身になることができるのだろうか、といった想いだった。
そんな想いが私の中で形になってきたのは、翌朝の撮影の時だった。私の中に「何か犯したのだろうか?何にも犯していないのだろうか?ここに囚われているのは何故なんだろう・・・」そんな感情が表れてきたことを記憶している。この文を書いている今は、その時の画像を見ていないので、どう写っているのかは分からないけど、あの時の私は単に囚われの身であったと感じる。
私にとって、想いやイメージは不可欠と感じた2回目の古民家。そして、私の想いを少しだけ残してきた。
もう一度、行くことが出来ますように・・・
掲載開始日 2018.3.29 掲載終了 2018.4.26
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