昨年の末、12月に入りめっきりと寒くなった。S駅のガード下の改札口で美帆と待ち合わせる。4週続けて駅の陽だまりを選んで待つことになる。
この地域は昔は植木職人が多くいて、ものの本によるとソメイヨシノ桜の発祥の地と云われている。大正昭和期には多くの文化人の住まいもあった。
商店街は下町の雰囲気は残しているが、それでも歯抜けのように新しい店が建つ。ガード下の通路を通る人にはアジア人の姿がめだつ。そんな線路脇にあるこの旅館はラブホテルとしての利用者がもっぱらの和室の古い旅館だ。6畳二間の狭い部屋には老人たちが使用したような淀んだ空気が残る。撮影において背景の力は強いものがあり、それにあがらいすぎると失敗する。
用意した絽の長襦袢を着せる。部屋の行灯に浮かぶ黒髪を下げた美帆が季節外れの霊気をおびた姿に浮かぶ。縄止めされた胸肉が白くふっくらとランプに照らされて生き身の幽霊のごとくの違和感で色気をただよわせている。部屋あかりを消すと小窓からのわずかな明かりがある。裾がまくれた尻がわずかにうごめき見つめる俺を誘う。密室の撮影はこの空気感を大切にしている。この興奮をいかにものにするかだ。美帆は久しぶりの畳の撮影に自分の立ち位置を得て、イメージを場面ごとに作っていた。それは布団の上に大の字にして手首を竹に縛ってみた。美帆は天井の一点を見つめてこれから起こることを思い浮かべている。物語が思い描かれるのを待つ。瞳がうるみ顔に緊張の波がよせる。俺は女の興奮を高ぶらせてこの物語のページをめくればいいのだ。乱れた黒髪がうごめき、荒い呼吸が腹部を揺する。汗に濡れた白い肌に黒髪が濡れて無残な美をつくる。淀んだ部屋の空気を一瞬のあいだ履いたように透明にした。
東京駅に近いのでこの撮影の夕食は東京駅の北口にあるうどん屋で天ぷらうどんを食べる。上方の味付けでさっぱりとしたこしのある美味いうどんである。
今回は4分ほどの動画も入れた。
文 杉浦則夫
掲載開始日 2019.1.31 掲載終了 2019.2.28
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